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広島高等裁判所 昭和52年(け)2号 決定

本店所在地

広島県広島市庚午南一丁目三四番八号

法人の名称

株式会社 丸山ツキ板商店

右代表者代表取締役

丸山喜一郎

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五二年八月二四日広島高等裁判所がした控訴棄却決定に対し、弁護人高洲昭孝から適法な異議の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件異議申立を棄却する。

理由

本件異議申立の趣意及び理由は、弁護人高洲昭孝作成名義の異議申立書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

所論は要するに、弁護人は本件控訴趣意書作成当時多忙で膨大な記録を閲覧することができなかったため、やむを得ず原決定記載のとおりの簡単な控訴趣意書を提出し、後日事実誤認の主張については詳細に記載した控訴趣意書補充書を提出したものであるが、右補充書は公判期日の一ケ月以上前に提出されていて審判には全く支障はないにもかかわらず、控訴趣意書の不備を理由に本件控訴を棄却した原決定は失当であるから、これを取消されたいというにある。

そこで本件異議申立事件記録及び本案の被告事件記録を調査して検討するに、被告人株式会社丸山ツキ板商店(以下被告会社という)は、被告会社代表取締役である原審相被告人丸山喜一郎と共に、法人税法違反の事実で広島地方裁判所に起訴され、昭和五二年二月二二日罰金五〇〇万円の判決を言い渡され、同年三月七日被告会社から控訴を申立てたものであるところ、同年四月一八日に記録の送付を受けた広島高等裁判所第四部は、同年四月二〇日に控訴趣意書差出期限を同年五月二〇日と指定してその旨被告会社に通知したこと、被告会社の請求により同年五月一一日国選弁護人畠山勝美を選任したところ、同日同弁護人から控訴趣意書提出期間延長申請がなされて、差出最終日は同年六月三日とされたこと、被告会社は同年五月一九日、原審における国選弁護人であった弁護士高洲昭孝を控訴審における弁護人に選任し、同日同弁護人から更に控訴趣意書差出最終日変更申立がなされ、差出最終日は同年六月二〇日とされたこと、同弁護人は同年六月一八日、「一、原判決は明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認がある。二、原判決は量刑が不当である。追って詳細は書面で述べる。」との内容の控訴趣意書を提出し、その後同年八月六日、事実誤認の主張についてより詳細な内容の控訴趣意書補充書を提出したことが明らかである。事実誤認あるいは量刑不当を理由として控訴を申立てた場合、控訴趣意書あるいは指定の控訴趣意書差出期間内に提出された控訴趣意補充書に、刑事訴訟法第三八二条、第三八一条所定の事実を記載しなければならないにもかかわらず、本件控訴趣意書じたいには前記のとおり単に原判決は事実誤認がある、量刑不当であると記載されているだけであって、その内容である具体的事実は全く記載されておらず、原判決に如何なる事実誤認があるとするのか、また如何なる点で刑の量定が不当であるとするのか全くこれを看取することはできない。しかのみならず、指定期間内に右の不備を補足すべき補充書も提出されていないのであって、本件控訴趣意書は同法条に違反した不適法なものといわざるを得ない。弁護人は前記のとおり控訴趣意書差出最終日から四七日目の同年八月六日に至って、事実誤認について具体的に記載した控訴趣意書補充書を提出しているけれども、もともと指定期限後に提出された控訴趣意補充書は、指定期間内に適法に提出された控訴趣意書の記載内容を更に具体的詳細にする目的で提出されるものであって、本件のように指定期間内に提出された控訴趣意書が控訴理由の骨子すらも具体的に記載されていない不適法なものである以上、控訴趣意補充書によって控訴趣意書の方式違反の瑕疵が補正されるものではない。この理は所論のように控訴趣意補充書が指定された第一回公判期日より一ケ月以上前に提出されたとしても変ることはない。また刑事訴訟規則第二三八条の趣旨に準じて、右の控訴趣意補充書提出の遅延がやむを得ない事情に基くものと認めて、これを指定期間内に提出されたものとして審判すべき場合に該当するか否かについて検討するに、所論のいうような事情は右にいう「やむを得ない事情」には当らないのであるから、これを指定期間内に差し出されたものとして審判すべき場合に当らないとして排斥した判断は相当である。

以上のとおりであって、控訴趣意書が刑事訴訟法所定の方式に違反していることを理由として本件控訴を棄却した原決定に何ら違法、不当の点は存しない。(異議申立書中には、原決定が量刑不当理由の不備をもって事実誤認の主張についての控訴趣意まで不適法としたと非難する部分があるけれども右は原決定の誤読である。)

よって刑事訴訟法第四二八条第三項、第四二六条第一項により本件異議の申立を棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮脇辰雄 裁判官 野曽原秀尚 裁判官 岡田勝一郎)

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